「職場の『困った人』をうまく動かす心理術」騒動が続く中、関係者からの謝罪や声明が相次いで発表されています。
イラストレーターや著者、出版社はそれぞれ立場を明らかにし、議論を受けての反省の言葉を表明しました。
だが、差別的だと感じた人々からの反発は収まる気配を見せず、発達障害当事者協会などの団体も強い懸念を示しています。
本稿後編では、各関係者の見解を整理し、今後の出版業界や社会全体での「表現の自由」と「差別的表現」のバランスについて、さらに深く考えていきます。
イラストレーター・芦野さんの謝罪

『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』の表紙を描いたイラストレーター、芦野公平(あしの こうへい)さんは、2025年4月、自身のnoteにて謝罪文を公開しました。
「この表紙が差別的だと感じた方がいることを真剣に受け止めている。傷つけてしまった方に深くおわびします」
芦野さんによれば、最初は人間のキャラクターを描いていましたが、出版社側の要望で動物キャラクターに変更したとのことです。
「動物にたとえる表現に危うさを感じながらも、制作を進めてしまったことを反省している」と、自らの責任も明確に述べています。
問題となった6つのイラスト

ひとによっては気分を害する場合があります。
その際には、本稿から目を背けて下さい。
●あなたの周りの「困った人」はどのタイプ?
右下の▼をタップすると見れます。
タイプ1 こだわり強めの過集中さん ≫≫ ASDタイプ

タイプ2 天真爛漫なひらめきダッシュさん ≫≫ ADHDタイプ

タイプ3 愛情不足のかまってさん ≫≫ 愛着障害タイプ

タイプ4 心に傷を抱えた敏感さん ≫≫ トラウマ障害タイプ

タイプ5 変化に対応できない価値観迷子さん ≫≫ 世代ギャップタイプ

タイプ6 頑張りすぎて心が疲れたおやすみさん ≫≫ 疾患タイプ

《 タイプがわかれば対策できる! 》
Amazon.co.jp: 職場の「困った人」をうまく動かす心理術 : 神田 裕子(現在は削除されています)
出版社・三笠書房の見解:「出版は予定どおり」

出版元の三笠書房は、「多くの意見を真摯に受け止める」とした上で、「本の内容を読めば、誤解は解けると信じている」として、出版の中止は行わない方針を表明しました。
問題となった“簡易診断チャート”については、「あくまで医療的な診断ではなく、対人コミュニケーションの目安として設けた」と説明。
また、表紙の動物イラストについても、「“困った人”をかわいらしく描くことで、敵意のない表現を意図した」としています。
ただし、「限られた事前情報によって誤解を招いた責任はある」とし、今後はより慎重な表現を目指す姿勢も見せました。
三笠書房と著者の見解
神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』について | 三笠書房
著者・神田裕子さんの発言:「差別のつもりはなかった」

著者の神田裕子さんは、「自分の家族にも発達障がいの傾向がある。他人ごとではない」と語り、「この本は“知ること”の大切さを伝えるために書いた」と説明。
動物イラストについても、「ピュアで愛らしい存在として描いた」とし、差別的な意図はなかったと述べています。
しかし同時に、「不快な思いをさせてしまったことは事実であり、もっと慎重にすべきだった」と反省の言葉も加えました。
著者についてはこちら

発達障害当事者協会の厳しい指摘
本件に対して、発達障害当事者協会は強く問題視し、出版社に対して正式に質問状を提出しています。
- 表紙・帯において発達障害者(ASDやADHD)を「困った人」と明示したこと
- ASDの人を「異臭を放つ」、ADHDの人を「手柄を横取りする」といった目次の記載
- 擬人化された動物イラストによる「言葉が通じない存在」のような描写
協会はこれらの表現が「発達障がいへの誤解や偏見を助長し、当事者の尊厳を傷つける」と明言。
さらに、差別的印象をやわらげるために「愛すべき」という言葉を入れたとしても、それは表面的な修飾にすぎず、根本的な問題は解決しないとしています。
また、本書では「発達障がい」のほかにも「うつ」「パニック障害」などの精神疾患や「更年期障害」までを「困った人」として扱っている点にも、深い懸念を表明しています。
現在、出版社からの返答を待っている状況であり、今後も誤った表現に対しては毅然と対応していく姿勢を明らかにしています。
出版業界・小売業界の背景:ヒット作を追うなかで

出版業界は今、書籍が売れにくくなり、多くの出版社が「話題性のあるヒット作」を求める傾向にあります。
三笠書房は、中堅の老舗出版社でありながらも、「利益重視の社風」や「社員の定着率」に課題があるといった声も業界内ではささやかれています。
出版物には「売れるかどうか」だけでなく、「社会的責任」も強く問われる時代になっています。
また小売業も同様で、書籍の売り上げをあげようと必死な景況と倫理観のジレンマのなか取り扱う書店も対応はまちまちで右往左往しています。
なかには、フリマサイトの中には高額で転売を出品する動きも見せています。
- 神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』について | 三笠書房
- 装画に関するご報告と経緯のご説明|芦野公平
- 発達障害当事者協会HP「お知らせ」
- 「障害者を動物扱い」「差別助長」物議の新刊、イラストレーターが謝罪「深くお詫び」当初案は人間キャラ→動物に置き換える指示で描き直し|まいどなニュース
わたしたちはどう受け止めるべき?
この出来事は私たちに投げかけています。
- どんな表現が人を傷つけるのか?
- その判断は誰がするのか?
- 「表現の自由」と「社会的配慮」はどこで線引きするのか?
出版社や著者、イラストレーターは「差別の意図はなかった」と口をそろえます。
それでも、「傷ついた人がいた」という事実は重く受け止めるべきです。

大切なのは、「相手の立場を想像しようとする心」と、「表現には責任が伴う」という意識です。
今回の一件をきっかけに、わたしたち一人ひとりが“知ることの大切さ”を改めて考えていけたら──それが、共生社会への第一歩になるのかもしれません。
前編はこちら

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